東京より愛を込めて。

知識・経験の棚卸

【ネタバレ注意】『7つの会議』はただ楽しめる映画ではない

※ネタバレを含んでいるのでご留意ください。

話題作、『7つの会議』を見てきました。 ただ面白いだけの映画ではなく、メッセージが込められていて考えさせられる。


「七つの会議」予告

見終わった後は、他の映画では味わえない、なんとも言えない感覚が残ります。
デートには全くお勧めしませんが、社会人が休日に一人で観に行く映画です。

映画のあらすじとしては、シネマトゥデイをご参照。

都内の中堅メーカー、東京建電の営業一課で係長を務めている八角民夫(野村萬斎)。最低限のノルマしかこなさず、会議も出席するだけという姿勢をトップセールスマンの課長・坂戸宣彦(片岡愛之助)から責められるが、意に介することなく気ままに過ごしていた。営業部長・北川誠(香川照之)による厳格な結果主義のもとで部員たちが疲弊する中、突如として八角がパワハラで坂戸を訴え、彼に異動処分が下される。そして常に2番手だった原島万二(及川光博)が新課長に着任する。 七つの会議 (2018) - シネマトゥデイ

映画の魅力について語らせてもらいましょう。

没入感、圧倒的没入感

この映画、没入感がすごい。思わず入り込んでしまう、「自分だったらどうするんだろう」と、映画の中の登場人物に自分を投影してしまうような魅力があります。

緩急のある展開

鬼が来る……あと5分で鬼が来る……

冒頭で一気に、その世界に引き込まれます。「鬼が来る?鬼って誰だ?」と、頭に"?"が浮かび緊張感が走る。そして、鬼の正体が営業部長であることが分かる。入りが圧巻、冒頭からいきなりの緊張、そして緩和。この冒頭数分で、映画の世界に一気に引き込まれます。部長が来て社員が起立するシーンなんかつられて一緒に立っちゃいそうになるぐらい。
緊張と緩和でいえば、主人公を演じる野村萬斎の演技。初めはぐうたら社員で、居眠りは常習、だらけた緩いふにゃふにゃした感じです。と思えば、要所要所では、別人のように鋭く迫力のある人間に。この主人公の演技自体が、映画に緩急を与えて観客を引き込む存在になっています。

テンポの良さ

加えて特筆すべきなのが、テンポの良さ。企業不正を暴いていく物語で、徐々に真相に迫っていく作りになっており、少しずつ真実に迫っていく。「疑問」→「解決」→「新たな疑問」→「解決」と、絶妙なタイミングで緊張と緩和が働いています。
また、机をたたいたり、歩くときの革靴の音だったり、あらゆる日常の音が出てくるわけですが、そのすべてがまるで計算されているかのようなリズムの良さ。形容しがたいですが、この日常音もまたうまく緊張と緩和を作り出すのに一役買っているのです。
なんかセリフのリズムもいいんだよなあ。狂言師の野村萬斎を筆頭に、歌舞伎役者やアーティストまで。物語の展開や、音、セリフのリズム、映画のあらゆる要素が、引き込まれるような映画の独特のテンポを作り出していました。大げさなまでの、舞台のような演技、そして野村萬斎のどこかコミカルな演技。全体的に不穏な空気が流れるこの映画に、演技で振りを作ることで、バランスがとられていて観やすい。

日本の"芸能"界を代表する役者陣

そして主要キャストがこれまた豪華。日本の伝統芸能を代表する俳優たちばかりをどうやって集めたんだよっていうぐらいガチな配役。2,000円弱で、2時間も日本の伝統芸能仕込みの芝居を観れるなんて安いもんじゃないですか。豪華俳優による演技バトル、まるで演技の天下一武道会。やりすぎにやりすぎを重ねて、こってりな演技に、野村萬斎のゆるいキャラクターが混ざり、いい塩梅に。

主人公、八角民夫演じる野村萬斎は、どこか不穏な雰囲気を持たせながら、「コイツが実は悪者なんじゃないか」と思わせるような演技。悪者なんじゃと思ってしまうことで、この映画がより楽しくなる。いやすごい。
吉田羊が、野村萬斎に掛ける言葉がまあ響く。社会人の自分にとても響く。不穏な空気が流れる映画に、大人の女性の包み込むような安心感。
そして濃すぎるベテラン俳優陣に囲まれながらも、抜群の存在感を示した浜本優衣演じる朝倉あき。正直個人的にはミッチー食ってましたよ、演技で。この会社で何をやってきたんだろうと、振り返る浜本優衣に自分を重ねる人も多かったんじゃないでしょうか。
何よりも、キャスティングガチすぎない?映画化作品って、演技がお粗末なアイドルとかジャニ〇ズとか出がちだけど、皆さん演技力強すぎてナンダコレ。本気度が伺えます。

まるで舞台演劇

狂言・歌舞伎・演劇・アーティストなど、舞台でも活躍されている方々の豪華共演。まるで舞台演劇を見ているかのようなダイナミックな演技。普通は眠くなる、会議のシーンであれだけ引き付けるのは正直すごい。会議なんて普通は、座って話すだけ。そこに体の動きや、表情の動き、語調の変化など動きを加え、話者をカメラがどんどん追いかけるカメラワークなんかも、目が離せない演出になっています。
個人的に一番好きなのは、最後の会議シーンの御前会議。なんだよこの絵力は、オーラは。やっぱり御前様は北大路欣也じゃないともはや収集つかない。ほとんどセリフがない中であの存在感何たるや。御前会議でもダイナミックなカメラワークがあるんですが、クライマックスに向けて、東京建電側のテーブルを定点で映し出すような静的なカメラワークもあります。その光景はまるで、『最後の晩餐』の様。絵画的な引きの画の中で、動きながら、立ち位置を変えながら口論する東京建電の役員・社員たち。動く名画を見ているような、演劇を見ているような。『最後の晩餐』の席次と重ね合わせて隠れた意味を持たせているのか?すごい。

主題歌渋すぎるよ、渋すぎるよほんと

主題歌は、ボブディラン。エンドロールで流れるわけですが、これがほんとに合ってる。映画の最後の雰囲気とこれ以上ないぐらいあってる。
結末はいろいろ考えさせられるわけです。勧善懲悪のように見えて、果たして何が正解だったのかと。現実に起こりうるような、現実味を帯びた結末。自分がもし上司から不正に加担するようにプレッシャーをかけられたらどうするか。
そんなことを考えながら、哀愁あふれるこの曲が流れ、八角による不正の考察の語り。


Bob Dylan | Make You Feel My Love (ORİGİNAL)

結末は、正直スッキリしたものではない。何か心にモヤモヤが残るような終わり方。自分だったらどうするか、だとかいろいろ考えてしまう。エンドロールで、そんなモヤモヤした感情に寄り添うかのようなこの選曲はもはやあっぱれです。
エンドロールを眺めながら、自分のこれまでの社会人人生を振り返り、香川照之がバラをチュパチュパするシーンにクスっとなり、また考える。


圧巻の映画だった、小説も読んでみようかなあ。

七つの会議 (集英社文庫)

七つの会議 (集英社文庫)